脱脱原発 2012 7 22
書名 原子力ルネサンス エネルギー問題の不可避の選択
著者 矢沢 潔 技術評論社
脱原発を宣言したドイツが、いつまで持ちこたえられるか。
結局、脱原発を脱する日が来るでしょう。
それは、ドイツのエネルギー事情を考えれば、明白です。
歴史的には、ドイツ発展の原動力は、石炭です。
近年は、世界最高水準の技術を持つ原子力だったでしょう。
著者によると、「多くの日本人は、
ドイツといえば、脱原発と風力発電の環境先進国と単純に信じているが、
それは、自分の見たい部分だけを見て頭の中に作り上げた、
少女漫画的な世界といったところである」と手厳しい。
この本では、ドイツのエネルギー事情をわかりやすく説明しています。
「ドイツは、EU諸国の中では、最大の石炭資源を持ち、
EU最大の石炭消費国である。
ドイツは、18世紀から19世紀には石炭火力によって産業革命を成し遂げ、
また第二次世界大戦後には、やはり石炭火力によって、
ドイツの奇跡と呼ばれる経済復興を実現した。
ドイツの石炭統計によれば、
今でも国内のエネルギー消費全体の40パーセント以上が、
石炭によって、まかなわれている」
問題は、その石炭です。
どういう問題があるかというと、こういうことです。
「ドイツ南部から長年にわたって掘り出されてきた石炭のほとんどは、
もっとも低品位の褐炭である。
高品位の無煙炭や瀝青炭と異なり、
褐炭は、多量の水分、不純物、気泡などを含み、
炭素の含有率が小さいために、
燃焼効率(発熱量)が低いだけでなく、輸送や貯蔵が困難であり、
また大気中に放出される二酸化炭素も桁外れに多い。
他のEU諸国からは、その『汚さ』も批判の対象になってきた」
そこで、環境先進国?のドイツ政府は、
これらの炭鉱は、2018年までに、すべて閉鎖すると発表したという。
自国の電力の主力が、
膨大な二酸化炭素や硫黄酸化物、窒素酸化物などを撒き散らす褐炭火力発電では、
(2004年でも電力供給の55パーセントに達した)
国際社会での発言に説得力がない。
そこで、どうするのか。
この本によると、高品位の石炭を海外から輸入するという。
結局、それでは、石炭依存のエネルギーは、変わらないと思います。
ドイツで有名な風力発電は、ドイツ政府エネルギー局が、
2005年に提出した報告書で、
「持続的エネルギーとするには、風力発電はコストが高く、かつ非効率である」と、
風力発電の「本家」が経験に裏付けされた報告書を出しています。
太陽光発電の問題については、「自然エネルギー 2012 4 21」を参照してください。
これも、ドイツで「経験に裏付けされた」現状報告となるでしょう。
このような状況で、脱原発を宣言したドイツは、
はたして、エネルギー政策をどうするのか。
「原発から撤退し、石炭火力も閉鎖したら、
この国は、深刻なエネルギー不足に陥る」
著者の知人であるドイツ人は、そう嘆く。
著者は、彼を安堵させるために、こう言った。
「ドイツ人は、そんな心配をする必要はない。
フランスから原発電力をいくらでも買えばよい。
ドイツは、実際には原発電力で生活しながら、
原発から撤退したと言い張ればよい」
私は、こう思う。
「それは、企業で言えば、粉飾決算のようなものだ」
自然エネルギー 2012 4 21
2012年3月16日の朝日新聞には、このような記事がありました。
「太陽光発電 ドイツ、曲がり角」
ドイツの太陽光発電が曲がり角を迎えている。
自然エネルギーによる電力を
固定価格で買い取る制度により普及を続けてきたが、
この2年間、発電パネルの新規設置が急増したため、
買い取り費の電気料金上乗せによる国民の負担増が無視できなくなった。
政府は買い取り価格の大幅な切り下げを決めたが、
反対意見も広がっている。
(以上、引用)
私は、前々から気になっていたことがあったのです。
それは、「なぜ、ドイツで太陽光発電なのか」ということです。
砂漠地帯に太陽光発電設備を設置するならばともかく、
ドイツの気候を考えれば、
太陽光発電は無理があるのではないかと思っていたのです。
やはり、記事には、このような指摘があります。
「ドイツは、日照時間が短く、
特に冬は厚い雲に覆われる日が多い。
太陽光発電の適地とは言い難い」
「ドイツのレスラー経済相は、
太陽光発電の実際の発電量は、全体のわずか3%なのに、
再生可能エネルギー法賦課金からの補助額の半分が、
太陽光に使われていると述べている」
自然エネルギーを推進することは、大いに結構なことですが、
やみくもに推進することは、大きな過ちです。